惜別

ある方の訃報に接し、自分の気持ちを少し整理するために綴ります。

その方のことをわたしは幼い頃から「おばちゃん」と呼んでいました。
おばちゃんとそのご主人である「おじちゃん」はわたしの両親の大親友。
わたしが幼稚園ぐらいの頃まで同じ町に住んでいて、二人の息子がいました。
こどもたちも年が近いこともあってとても仲良しで、特に同い年の次男と わたしの弟はいつも子犬のようにじゃれあって、わんぱく×2の相乗効果。
とても仲のいい家族同士でした。

その後別々の町に住むようになっても、ずっと交流は続きました。
おばちゃんはそれ以降３人の男の子を産みました。
お腹が大きくなったおばちゃんに、当時大人ぶって生意気盛りの
わたしは
「おばちゃん、また赤ちゃん産むの～？」
なんて言って大人たちに笑われたものでした。
大きなワゴン車に乗ってうちに遊びに来る、やんちゃな男の子ばかりの７人家族は、
とても賑やかで、いつも幸せそうでした。

それでもやっぱり娘のいないおじちゃんとおばちゃんは、
わたしと姉の事をことのほか かわいがってくれました。
姉が一度「おばちゃんの卵焼きがいちばん好き」と言ったら、それ以降、会うたびに作って来てくれました。
無口で少しこわもてのおじちゃんのことは少し怖かったけど（ほんとはすごくおちゃめなおじさんです）、おばちゃんはいつもニコニコしていて、おしゃべりなわたしの話も
「んだの～、んだの～。すごいな～」
って聞いてくれるのがとてもうれしくて、わたしはいつもおばちゃんと会うのが楽しみでした。

わたしが青森を離れてからは、おのずと会う機会も減り、最後に会ったのは確か４年前の夏。
弘前のねぷたを見るために、ご自宅に１泊させてもらった時のことです。
５人の男の子たちは既に巣立ち、おじちゃんは当時単身赴任中。
ひとりで暮らしていたおばちゃんはなんだかすごく小さくなったように見えました。
でも明るくてはっきりした性格は相変わらずで、その時一緒に行ったダンナ（当時は１０年以上付き合っていながら、結婚の予定はありませんでした）に
「結婚するんでしょ？するっていいなさい」
なんて笑いながら凄んで、ダンナをびびらせたものでした。

あれから４年。
おばちゃんが闘病していた事すら知りませんでした。
姉から
「おばちゃん、集中治療室に入ったって」
と聞いたのが最初でした。
そしておととい、母から
「おばちゃん、とうとうだめだったよ」
と知らされました。
本人の希望でご遺体は検体されることになったそうです。
ご遺体は病院から直接研究室へ。
お骨となって戻って来るのは１年も後になるとのことでした。
結婚前、ナースだったおばちゃんらしい選択です。
医者であるおじちゃんにも異論はなかったことでしょう。

でも、生きている者のエゴであると分かっていても、
わたしはなんだか切ない気持ちになってしまいました。
お通夜もお葬式も家族のみで、お香典やお供物も辞退、
と言うのも本人の強い意志だったそうです。
母と電話で話しながら涙が止まりませんでした。
わたしはどうやってお別れをしたらいいんだろう。
思えばあの時おばちゃんの前で結婚の約束をしたわたしたちは、その後一度別れたもののヨリを戻して
結婚した事すら、まだちゃんと報告していませんでした。

長い間会うことはなくても、その人がどこかで元気でやっているって、 当然のようにいつも思っているけど、現実はそうじゃなくて、 いつ別れが来たっておかしくない。
当たり前のことだけどいつも忘れていて、こんな風に思い出させられると 、一体どうしたらいいのか分からなくなってしまう。

「何にもできないなんて・・・」
電話口で絶句するわたしに母は言いました。
「心の中で思いなさい。それでいいんだよ」
４０年来の親友の死を、母はずいぶん前から覚悟していたようでした。
彼女が自分の「死」と向き合う姿勢も、親友として理解しているのでしょう。

まだまだ思考の幼いわたしには、少し難しいことだけど、
母の言うとおりおばちゃんのことを 心の中で思ってお別れしようと思います。


にひらのおばちゃん、ありがとう。
大好きでした。
幸せになるからね。
ばいばい。